2007年4月 5日 (木)

春の嵐

Dvc00028_1 きのうは人並みにお花見に行ってきました。

お花見といってもあのブルーのシートを敷いて、寒さに震えながら、花なんか見てる余裕なんかないぜと、安い酒飲んで、まずそうなもん食って、下品に騒いで、セクハラして、ゴミを散らかして、ゲロ吐くという、難民キャンプの宴会みたいな貧乏臭い花見ではありません。
場所は新宿御苑。もちろん酒なんか飲みません(酒類持込禁止だからだけど)。持ち込みは禁止だけど中の売店でビールは売ってました。でも、もちろんそんなもん飲みません(寒かったからだけど)。シートや新聞紙を敷いて座り込むなんていう貧乏臭いこともしません(寒かったからだけど)。セクハラもしません(おじさん四人だったからだけど)。ただ公園内を歩きながら春の花の雅を愛でるだけ。平日のせいか歩く人もまばらでそんな風流な花見には最適です(寒かっただけだろうけど)。

まずは早く閉まってしまう温室をのぞきました。外とは対照的に温室の中は人でいっぱい(ようするにみんな寒かったのね)。動物園とか水族館と比べると温室で植物を見るなんてなんか地味そうじゃないですか。でも老若男女一般市民の皆さんは草花の名前や形態にいちいち驚いたり笑ったりしながらわあわあきゃあきゃあと大騒ぎしているのです。

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ちなみにぼくもダチュラを発見してちょっと感動。『コインロッカー・ベイビーズ』を最初に読んでから27年、初めて本物を見ちゃったぜ。

温室を出てから本格的な花見。新宿御苑にはいろんな種類の桜があって大きさも色も様々、ゆっくり見て歩こうと思っていたらポツリポツリと雨が。まあ大したことないな、と歩いているうちにやがて大粒になり、道端の東屋に避難。まあすぐに通り過ぎるよ、と気休めを言っているとやがて雷が鳴り「大きな木の近くにいると危険ですので近くの建物に避難して下さい」というアナウンス。「まあこういう花見もいいよね」などと強がりを言っているうちに雨は強くなり、やがて30分、一時間とたち午後四時半の閉園時間。

そこでようやく、このままここにいたのではやばいのではないか、夜まで取り残されてしまうのではないかと森の向こうに見える売店の建物まで走ったのです。そこにはやはり逃げ遅れた二十人ほどが途方にくれています。なんか本当に難民っぽくなってきたなあ、と思っていたらそこに環境省と書かれたバンが到着。政府の救援隊です。新宿御苑って東京都のものだと思ってたら環境省の管理だったんだね。

Dvc00025 そして、早く帰りたいんだけどおめーらがいるから帰れじゃねえかよ、早くしろよなどという気持ちは顔にも出さず「若い方は荷物スペースで我慢してください」、「いちどに全員は乗れません、車はまた戻ってきますのであわてないで下さい」と指示する職員のみなさんのおかげで、サイゴン陥落の日のような混乱もなく、われわれは無事救出されたのです。

その後、おじさん四人はもちろんおでん屋にとび込み、熱燗のお銚子で凍えた手をあたため、心に刻んだ美しい桜の姿にそれぞれの思いをはせながら、静かに飲んだくれたのでした。

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2007年2月19日 (月)

教訓I

七回も入院したってことは七回退院したってことで、そのうちの何回かに加えて「がんが消えた?」報告なんてのもあって、そのたびに「退院祝いだ!」、「めでたい、めでたい!」などと宴会シリーズが入ったりしてたんだけど、その日になると「実は抗がん剤治療でまた入院するんだけど……」、「実は再発が見つかって……」など、とってもめでたくないニュースが入って盛り下がったりしていました。

そういうときは、こういう事情なので宴会はまた次に機会にしましょうとか言って断ればいいようなもんなんだけど、根が意地汚いものでついつい出かけてしまって、なんかまわりに気を使わせながら平気な顔して飲んでたりしてたわけです。一年もそんなこと繰り返してれば少しは学習して、今回元気になったからといってもしばらくは自重するかといえば、そんなことはぜんぜんなくてさっそく先週から夜の巷をひらひらと舞い歩いています。

そんなゾウリムシあたまでも学習したことがひとつ。食べたものが通りにくいぐらい食道が細いってことは、とうぜん逆方向にものが通ろうとしても通りにくいのである。なんのことかというと、先週のある日、今はとっても酒に弱くなっていることを忘れてちょっと飲みすぎ、気持ち悪くなってしまったのです。意地汚い酒飲みというのは、吐いてでもまた酒を飲もうというもので、ぼくも若い頃にそういう愚かな習慣がついていました。そのときも軽い気持ちで、ちょっと吐けば楽になるだろうと考えたのが浅はかだった。

トイレに入り、のどに指を突っ込んで、おお、いけるぞ、というところまではよかったんだけど、

で、出ない!

胃はすでに内容物を逆噴射させてるのに、ゲロが食道につまって出てこない!

これは苦しいぞ。

けっきょく、しばらく苦しんでからスポっと出てきた。

ここで、よい子のみなさんに教訓です。食道がんで放射線治療をしたり、内視鏡手術をして食道が細くなっているひとは、ゲロ吐くまで酒を飲まないようにしましょう。

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2007年1月10日 (水)

正月雑感(2)

もうひとつ正月に気づいたことは、お餅というものを食べることはもう一生ないんだなあということでした。これは手術前の段階でも同じことで、放射線治療で食道がもう細くなっているので、お餅なんてつっかえやすい食べ物ナンバーワンだったりするわけです。

べつにお餅なんか好きでもなんでもないし、これまでだって年末年始に外国にいたり日本にいても実家に帰ったりもしないときは何年も食べなかったりすることもあったわけだし、もうお餅が食べられないなんて人生真っ暗だぁなんてことはぜんぜんないわけで、まあどーでもいいことなんだけど、ちょっとハテナ?と思ったのは食道がんになる前おれは何を食って生きていたんだろうということ。

食道が細くなった結果、去年から食べられないものが多くなってきていて、今は痛みがあるのでかなり限定されちゃってうっとおしいけど、手術の前まではそれほどの不自由さは感じていなかった。つまりもともとかなり限定された狭い範囲の食生活を送っていたのではないだろうか。

がんになる前はどんな食生活だったかというと、朝は抜きかせいぜいパン、たまに立ち食いそば。昼は基本的にそばかラーメンかスパゲティ、たまにカレー。夜は酒のつまみだけ、だいたいもつ系かたまに刺身。でも実際は刺身っていうよりもアン肝だとか白子だとかかにみそだとか今でも食べられるようなものが多かったような気もするなあ。

で今はどんなかというと、朝はパン。お粥は病院で毎日食わされたのでもう見たくもないのだ。昼はそば。夜はパンか麺類。おお、あんまり変わんないぞ。

もともと肉はあんまり食べなくて、パリにいるときも自炊でも外食でも肉よりは内臓系を選んでたしなあ。たんぱく源は卵とチーズだったのは今も同じだ。だから今悲しいのは酒が飲めなくて内臓が食えないということぐらいなんだけど、普通に生きている人のほとんどは酒が飲めなくても内臓が食えなくてもどーでもいいことなので、そんなこと言っても誰も同情してくれないんだよね。

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2007年1月 8日 (月)

正月雑感

正月といっても、退院直後だしどこに出かけるでもなく淡々と日々をすごしていました。べつにがんじゃなかった去年(実際にはすでにかなり進行していたんだけどね)もおととしも同じようなものだったような気もしてたんだけど、よく考えてみると大晦日と元旦以外はだいたいどこかで飲んでたような気もするので、やっぱり今年はかなりおとなしい正月だったのかな。

正月ぐらいノンビリすれば、などというやさしいメールをくれた人もいたけど、去年一年はほとんどノンビリと日々をすごしていたわけで、どこまでノンビリでどこからノンビリじゃないのかよく分かんないような体も頭もボケボケ状態で、かなりハードなリハビリが必要そうではあります。

以前は他人のWeb日記とかブログなんてぜんぜん興味がなかったんだけど、病気になってからヒマなのもあるし、自分でブログを書くようになったこともあって、ひとさまのブログなどをいくつか定期的に見るようになっているんだけど、ほとんどの人が元旦にはきちんとお正月のあいさつをアップしてるので驚いてしまった。そういう人はみんなふだんからほとんど毎日更新していたりするわけで、はっきりいってブログみたいなどうでもいいようなもののために(そういう発想がもう時代遅れなのかもしれないけど)みんなほんとうに勤勉なんだなあと感心してしまった次第です。

ぼくのこのブログは、去年の二月に急に入院、がん告知となってしまって、いろいろと問い合わせとかあって、いちいち経過をはじめから全部説明するのがめんどくさいのでここを見てちょ、というひじょうに後ろ向きな理由から始めたものなので、ぜんぜんそんな勤勉さはないわけです。もともと日記をつける習慣もないし、ましてや自分の日記を人に読んでもらおうとか、なにか情報を発信しようなどという、前向きな動機もないしね。だから病状報告以外になんか書いているのは、酒を飲みながらくだらない話をする時間が圧倒的になくなったので、その分がこっちにまわっているということかな。

というわけで、そういう勤勉な人たちを見習おうという話ではぜんぜんありませんでした。

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2006年7月25日 (火)

陰謀

まえの病院もおなじシステムだったんだけど、入院が決まってもベッドが空いて自分の順番がいつになるかは直前まで分からない、連絡がきたらその翌日に入院ということになっています。夕方6時ごろまで電話を待ってそれから翌日の行動を考えるという落ち着きのない日々で、きょうも電話はきませんでした。前回3月のときには緊急扱いで入院が決まってから一週間待たされたし、明日はどうなるか分からないこの不安定感はきらいではないんだけどね。

ところで、今回の急な治療方針の変更にはいくつかの陰謀説がささやかれています。

陰謀その1 このブログの存在が病院側にばれていて、こいつは野放しにしておくと酒ばっかり食らってろくなもんじゃない、しばらく病院に閉じ込めて抗がん剤の実験台にでもしたほうが、本人のためにも世の中のためにもなるだろうという判断が下った

陰謀その2 先週の検査結果は違う患者のものだったことが判明し、じつは転移だらけで大変なことになっていたんだけど今さらそんなことはいえないので、とりあえず抗がん剤治療という口実で入院させておいて、あとは麻酔で眠らせて手術してしまおうという作戦

陰謀その3 ナースステーションにぼくのファンクラブがあって、このまま元気になって遠いところにいってしまうのは悲しいので、今のうちにひとめ会っておきたいという熱狂的なナースたちの熱意が医師団を動かした

陰謀その4 病院も夏涸れでたいへんなので、入院患者ゲット!サマーキャンペーンが行われている。とはいえドクターたちも交代で夏休みをとりたいのであまり手のかかる患者は困る。ぼくのように抗がん剤だけ与えて転がしておけばいい患者はちょうどよかった

脳みそも涸れてきているなあ。

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2006年6月14日 (水)

語りたがる人たち

池田晶子という人の文章からは、この奥山貴宏さんがせっかく死を目の前にするというラッキーな状況を手に入れたのにもかかわらず「死とは何か、自分とは何か、宇宙が在るとはどういうことか」を考えていない、「そういう内省的な言葉」を語っていない、だからこいつはバカなんだ、こいつの死には意味がなかったんだという、傲慢な態度が伝わってきます。

「生きるとは何か」「死とは何か」といったテーマで大上段にかまえて語られる言葉をありがたがる人はたくさんいるわけで、出版の世界ではかなりのマーケットをもっています。作家でも小説が書けなくなると、人生を語ることで食いつないでいくというのもパターンとしてあるみたいだし、そういう本はけっこう売れるわけです。この池田さんの本を見ても「生きているとはどういうことか」「死ぬのは不幸なことなのか」などという言葉が並び、それで商売をしていることが分かります。

それはそれで勝手にやっていればいいんだけど、気に入らないのはそういうことを声高に語ることこそが高尚な行為で、そうじゃない奴は何も考えていない愚かな人間だと断罪する態度なのです。「人生とは」「本当の自分とは」などと、語るという行為のみで自己満足してしまう人というのはたくさんいて、そういう奴らの語っていることなんて言葉だけが上すべりしていて、実は何にも考えていない、スカスカで聞くに耐えないものがほとんどで、それは下品きわまりないものです。

末期がんの患者が人生や死を考えたフリをして薄っぺらな言葉を並べたような闘病記なんていくらでもあって、少なくとも奥山さんはそういうことを声高に語るというスタイルをとらなかっただけのことだと思う。死を目の前にして、ガンダムのプラモを作り続ける三十男の姿にこそもっと読み取れるものがあるような気がするけどね。

そしてもっと気に入らないのはそこからさらに、若いパソコン世代はそういう愚かな人間ばかりになってしまったのだと、世代論にすりかえていること。この人は自分がパソコンやインターネットとは無縁であることを売りにしているんだけど生まれはぼくと同じ1960年、パソコン世代の代表にされてしまった奥山貴宏さんは1971年生まれ、そんなところで「人間の実存のある種の変質を」見られても困ってしまうわけです。

『週刊新潮』なんて下品なメディアに身をおいて高尚ぶってんじゃねえよ!
あんまり不愉快だったんで、柄にもなく語ってしまったじゃねえか。

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2006年2月26日 (日)

ブログをはじめます。

 がん告知から10日、病院にいて時間だけはたっぷりあるんだからブログでもやれば、という周囲の声に押されたわけでもないけれど、これから何ヶ月かのあいだ、世間のほとんどの人が経験することのない日々を過ごすわけで、闘病記などという立派なものではないのだろうけれど、とりあえず何かを書き記しておくべきかもしれないというささやかな思いからこのブログをはじめます。

 

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