大みそかのこと(4)
10:00pm
さすがにこのままじっとしててもなおることはないな、このままだとけっこうやばいかもしれないなと判断、救急車を呼ぶことを決心する。こうして振り返ってみると、ほんとうに判断力ないというか、悲しくなるくらいあたま悪いな。
保険証と携帯、ありったけの現金、もしもの場合を考えて虎の門病院の診察券をポケットに入れて119番。名前と住所、おなかが痛くてもうがまんできないということを伝える。わざとそうしてたわけじゃないんだけど、かなりあえぎあえぎの芝居がかった口調だった気がする。でも、この期におよんでも、おなかが痛いぐらいで救急車を呼ぶってどうよ、という意識があったことも否めないところではある。
うちのアパートは救急車が入って来れないような路地の奥にあって、部屋は2階でエレベーターもなく、救急隊員が担架をもって上がってくるのは不可能なぐらい階段も細い。どーすんだろうなあと思いながら、もうコートを着こんでドアのところで待っていたら、119番してから一分ぐらいで電話がかかってきた。携帯じゃなくて固定電話からかけたんだけどそこにかかってきたのだ。狭い部屋だけど、ドアから電話のところまでひいひい言いながら戻り電話をとる。
「こちら救急車ですけど、もうすぐそばまで来ています。そちらの部屋まで行くのはたいへんそうなんですが、おもてまで出てこれますか?」
詳細な住宅地図が手元にあったのだろう。それにしてもずいぶん近くに消防署があったんだなあと思う。
「はい、なんとか大丈夫だと思います」
ひいひい言いながら階段を降り、なんとかおもてまで出るがもう一歩も歩けない。路地のむこう、駅のロータリーのところに赤いランプが回るのが見える。ふだんはこの時間でもけっこうにぎやかな路地だけどさすがに大みそかの夜は人気がない。救急隊員が担架を下ろしているのが見える。そっちに向かって手をふる。二人の救急隊員が台車つきの担架を押しながら走ってくる。名前を確認する。担架にしばりつけられガラガラと明かりの消えた斎藤酒場の前を通過、救急車に移される。119番してからここまで10分かかっていない。正確には分かんないけど、たぶん5分ぐらいしかかかってないんじゃないんだろうか。
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コメント
「よく頑張りました」という特大のハンコと、フィクション作家登竜門賞の金賞を差し上げたい気持ちです。
投稿: 愛読者1 | 2008年1月30日 (水) 11時54分
小腸の写真も大迫力でしたが、今回の刻々のドキュメンタリーも読んでて息が詰まります。でも貴重な情報です。フィクション、ノンフィクションを超えた詳細レポート感謝です。
投稿: 愛読者2 | 2008年1月30日 (水) 21時01分
フィクションじゃなくて、ノンフィクションでございました。大変失礼いたしました(読み直して自分でびっくり)。
この大間違い野郎をぶん殴ってくださいまし。
投稿: 愛読者1 | 2008年1月30日 (水) 21時17分
トロピックオブキャンサー大晦日編 次回予告
2007年大晦日の午後に始まった腹痛は、夜までには激痛に変わり本人の体を襲う。自力で近くのヤブ医者に行ったり、自分で救急車を呼んで病院に向かった彼の運命は! そして明かされる腸閉塞の手術室で起こった真実とは!
悲しんでいいんだか笑っていいんだか読む人を混乱させる天才真ちゃんが送る感動のSM闘病ドキュエンターテイメント。
あなたも次回が待ち遠しい!
※お断り この予告編は本人に全くお断りなく勝手に書かせて貰ってます。
ご本人さん、すいません。
投稿: 愛毒者 | 2008年1月31日 (木) 01時46分