健康な人のマネ
「無理をしないように」
退院してから合言葉のようにかけられることばです。あえていうと、これは病人、あるいは病人から抜け出そうとしてる人間にかけることばとししては根本的に間違っている。
渡辺和博さんはまえがきで、かつて骨折したあとのリハビリ中に医師から言われたことについて書いています。
鏡の前で足を引きずっている私を見て「少し無理をしてもいいから普通に歩きなさい」とおっしゃった。
先生によれば足を引きずって歩く方が楽だろうけど、それを続けるといつまで経っても治りませんとのこと。
(中略)
このとき私は、普通に歩くことは、普通の人の歩き方のマネをすることなのだと気づいた。
(中略)
今回入院することになったときも病気になったのだからと落ち込まずに、なるべく健康な人のマネをしてやっていこうと思ったのだが・・・・・・。
骨折とがんは違うというひともいるだろうが、治療を終えて衰えたからだを回復させようという段階にあるという意味では違いはない。手術後しばらくして病棟の廊下をゾンビ歩きできるようになった頃、ほかのじじいの患者よりもずいぶんたくさん歩いているだろうという自信があった。あるとき、廊下を何周かしてベッドに戻るとかなり息が切れていてきょうはちょっと無理しちゃったかなと思ってるときに、検温に来たナースにどれくらい歩いているのかを聞かれた。一日に6周を3回と答えると、今の時期なら最低でも10周を3回でしょうと言われた。それは無理だと言うと、ぜんぜん無理じゃありませんと一蹴されてしまったのだ。いつもどちらかというとへらへらしてるナースの目がこのときは冷たく光っていた。病院にいるとドクターやナースから無理をしろと言われる。病院を出るとまわり人間から無理をするなと言われる。
衰えきった身体はどんなにがんばたって無理はできない。身体に害があるようなレベルまでのことはできないようになっているのだ。ぼくのいまの身体だったらどんなにがんばって運動しようとしても、たくさん食べようとしても、ある程度で自然とストップがかかってしまう。だから、自分では無理だと思う程度までなにをしてもたいしたことはできないのだ。というかそれぐらいまでやらないと、無理をしてでも健康な人のマネをしないといつまでも足をひきずったままだ。「無理をしないように」と言うのは「いつまでも足をひきずったままでいいよ」と言うこととかわりない。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント