馴染みだよなあ
立川談春の独演会に行ってきました。会場は練馬文化ホール。改札からそのまま陸橋をわたって行けるすげえ立派な建物。ハコモノ行政ばんざい!この日やったのは小さい方のホールだけど、それでも600人ちかく入る。満員の客席には「私、ちょっと落語にはうるさいです」ふうのインテリ系はあんまりいなくて「私、げらげら笑いに来ました」ふうの近所のおばさんみたいなのが多くていい雰囲気。さすが練馬だ。
とはいえ「私、げらげら笑いに来ました」ふうも程度問題で、おれの右側にきたばばあはちょっとこまったちゃんだった。どこでもむやみやたらとげらげら笑うのはまあいいんだけど、自分がげらげら笑ったところでまわりが笑わないと左右の人間の顔を「なんであんた笑わないの」という顔でいちいちのぞきこむのだ。こないだ敬老の日の朝のNHKの番組で談志が高座の最中にこの手の客に向かって「そこ笑うとこかい?」と声を出していらだっていたけど、おれは当然そんなことは言えなくてただびびっているだけだった。
時間になって幕が上がると談春のめくりが下げられて、なんか若いのが高座に上がってきた。志らくの弟子で二つ目のらく次だという。で、こいつが言うには「そこまで師匠の真似をしなくてもいいと思うんですが」ということで、そーいうことらしい。このらく次が談春のものまねをしたりしてけっこうおもしろくて『黄金の大黒』で30分ぐらいたったところで談春の登場。演目は『紙入れ』と『九州吹き戻し』。『九州吹き戻し』は家元をして「おれと同じぐらいうまい」と言わしめた談春の勝負噺(そんなことばがあるのかどうか知らないけど)。東京でやるのは三年ぶりだということでかなり気合いが入っていて、いいもん聞かせてもらいましたっていう感じ。
でも、この日いちばんきたのは、三回だけ会ったことがあるという志ん朝の思い出を語ったところだ。最初の二回はあいさつをしても目をあわせてもくれなかった。三回目のときには会の主催者かなんかが、二人の間にいろいろあった時期だったのだろう、とても気まずそうに「談志さんのお弟子さんの談春さん・・・」ととても気まずそうに紹介しかけてくれたところで志ん朝はひとことだけ「知ってるよ。馴染みだよなあ」
男の子はここでぶわっと泣くのだ。もちろん談春の語りの間がいい。「馴染みだよなあ」で一拍おいてゆるやかに次の話題に移ってしまう。○○とかダメな落語家だとここで「わたしゃ泣きましたね」とかつまんねえ一言を入れてしらけさせてしまうところだろう。談春はこーいう小技が巧みなんだよね。この日がはじめての生談春だったんだけど、これまでCDだけでもこーいう小技に泣かされてきた。
で、おれがめがねをはずして涙をぬぐっていると、となりのばばあは不思議そうにそれを見つめていました。
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コメント
私には、三浦さんの語りとスタンスが心地よいです。
投稿: 愛読者 | 2007年9月24日 (月) 20時24分
立川流の皆さんはみな逞しい!そして繊細だ!
それを話題にする三浦さんは、さらに魅力的!
・・カキコ、裏を返しました・・・ポール
投稿: ポール | 2007年9月27日 (木) 15時22分