春の嵐
お花見といってもあのブルーのシートを敷いて、寒さに震えながら、花なんか見てる余裕なんかないぜと、安い酒飲んで、まずそうなもん食って、下品に騒いで、セクハラして、ゴミを散らかして、ゲロ吐くという、難民キャンプの宴会みたいな貧乏臭い花見ではありません。
場所は新宿御苑。もちろん酒なんか飲みません(酒類持込禁止だからだけど)。持ち込みは禁止だけど中の売店でビールは売ってました。でも、もちろんそんなもん飲みません(寒かったからだけど)。シートや新聞紙を敷いて座り込むなんていう貧乏臭いこともしません(寒かったからだけど)。セクハラもしません(おじさん四人だったからだけど)。ただ公園内を歩きながら春の花の雅を愛でるだけ。平日のせいか歩く人もまばらでそんな風流な花見には最適です(寒かっただけだろうけど)。
まずは早く閉まってしまう温室をのぞきました。外とは対照的に温室の中は人でいっぱい(ようするにみんな寒かったのね)。動物園とか水族館と比べると温室で植物を見るなんてなんか地味そうじゃないですか。でも老若男女一般市民の皆さんは草花の名前や形態にいちいち驚いたり笑ったりしながらわあわあきゃあきゃあと大騒ぎしているのです。
ちなみにぼくもダチュラを発見してちょっと感動。『コインロッカー・ベイビーズ』を最初に読んでから27年、初めて本物を見ちゃったぜ。
温室を出てから本格的な花見。新宿御苑にはいろんな種類の桜があって大きさも色も様々、ゆっくり見て歩こうと思っていたらポツリポツリと雨が。まあ大したことないな、と歩いているうちにやがて大粒になり、道端の東屋に避難。まあすぐに通り過ぎるよ、と気休めを言っているとやがて雷が鳴り「大きな木の近くにいると危険ですので近くの建物に避難して下さい」というアナウンス。「まあこういう花見もいいよね」などと強がりを言っているうちに雨は強くなり、やがて30分、一時間とたち午後四時半の閉園時間。
そこでようやく、このままここにいたのではやばいのではないか、夜まで取り残されてしまうのではないかと森の向こうに見える売店の建物まで走ったのです。そこにはやはり逃げ遅れた二十人ほどが途方にくれています。なんか本当に難民っぽくなってきたなあ、と思っていたらそこに環境省と書かれたバンが到着。政府の救援隊です。新宿御苑って東京都のものだと思ってたら環境省の管理だったんだね。
そして、早く帰りたいんだけどおめーらがいるから帰れじゃねえかよ、早くしろよなどという気持ちは顔にも出さず「若い方は荷物スペースで我慢してください」、「いちどに全員は乗れません、車はまた戻ってきますのであわてないで下さい」と指示する職員のみなさんのおかげで、サイゴン陥落の日のような混乱もなく、われわれは無事救出されたのです。
その後、おじさん四人はもちろんおでん屋にとび込み、熱燗のお銚子で凍えた手をあたため、心に刻んだ美しい桜の姿にそれぞれの思いをはせながら、静かに飲んだくれたのでした。
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