ひとさまの闘病記(11)
武満徹『サイレント・ガーデン~滞院報告・キャロティンの祭典~』新潮社1999
作曲家の武満徹さんは、1995年2月に膀胱、続いて首のリンパ腺にがんが発見され、さらに皮膚筋炎という膠原病から間質性肺炎を発症していました。がんには抗がん剤、より緊急を要した間質性肺炎にはステロイドの投与が続けられました。翌96年2月に間質性肺炎による急性肺水腫が原因で亡くなります。
これは、死後しばらくして発見された1995年5月から9月までの虎の門病院入院中の日記とやはり入院中に書かれた料理レシピ集(デッサン入り)を一冊の本にまとめたものです。武満さんはたくさんの著作も残していて、文章はどれもみごとに彫琢されているんだけど、その感情のおさえ方や隙のなさ、気負いのようなものが読むものを身がまえさせるというか、ときには肩がこるものではありました。
でもこれはまったく公開されることを意識していなかったものらしく、思ったことをそのまま書いちゃってるぜという書きっぱなしの爽快感があって、ぶつぶつ文句をいっているふつーのおっさんの部分がでていていい感じです。
6月14日
井上陽水、小室等ふたりして見舞いに来てくれる。やさしいひとたちだ。クラシックの若いひとたちとは気性がまるで違う。
武満徹にこんなことをいわせるクラシックの若い奴って・・・・・・
7月19日
その部屋の住人たるや!? ソルジェニーツィンの小説に出てきそうな自己中心の男どもと、ぼくの眼には映ったーー。「宜しくお願いします」と挨拶しても干からびた目でただ黙して睨みかえされただけ。
これは新しい病室に移ったとき同室の患者を描写しているところだけど、ほかにも
いまの部屋の住人は朝の挨拶もなく、中、初老の日本男子は、ほんとうに面白味のない人が多い。
なんていうのがあって、これはけっこう感じることではあります。この病院の患者がとくにそうなのか、どこにいっても同じなのかよく分かんないけど。とくにこの病棟はがん患者ばっかりだしなあ。
武満さんは、亡くなるひと月前には肝臓への転移も発見されていましたが、解剖ではがんはすべて消えていたそうです。
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